佐藤さんの非日常な日記

日常にありそうでない、体験…。

ブログノベル「逆立ち」

1.

痛い…。

頭がズキズキと痛む。酷い頭痛だ。

いや、頭痛と言っていいのか、頭の内部が痛いと言うより、頭部の外側が痛む。

そう、頭を何かにぶつけたような痛みだ。

一体、何にぶつけたんだ?

思い出せない。

というか…、自分は寝てた??

いや、気を失ってたのか??

 

僕はゆっくりと瞼を開いた。

 

2.

真っ暗だ。

ほんのり光があり、ぼんやりと辺りの様子が分かった。

何処だここは!?

地面に仰向けになっていた身体を慌てて起こした。

 

ズキンッ!

 

痛っ!

 

慌てて身体を起こしたせいで、頭部に痛みが走った。

やはり、頭を打って気を失っていたのか?

 

それにしても…、何処だ、ここは?

 

暗くても分かるのは、だだっ広く、天井も高い。

 

暗闇に目が慣れてきて、よくよく見ると、

ここは、体育館のようだ…。

 

3.

体育館!?

 

なんで、自分は、体育館にいるんだ!?

 

そして、何より気になったのは、上体を起こした時に一番初めに目の前に飛び込んできた物、

ビデオカメラ。

 

100cm程の三脚に固定されたビデオカメラの一部が赤く点灯しており、その明かりのおかげで、辺りの様子を把握することができたのだ。

 

なんだこのビデオカメラは?

 

まるで、僕を撮影してるかのように思える。

 

一体誰がこんなものを?

 

そもそも、自分が何故体育館にいるのかもよく分かってないが、何となく分かり始めて来た。

 

4.

現在の時間は、夜の10時をとうに過ぎている。

何故なら、体育館は完全に消灯されている。

僕の知る学校の体育館は、たしか、夜の10時に自動的に消灯する為、体育館を使う部活動も午後10時までには、必ず終わるようになっていた。

何処となく見覚えのあるこの体育館は、僕が子供の頃、毎日通っていた小学校の体育館だ。

大人になった今でも時折、演劇活動の練習で使わせてもらっていた。

ここまで、記憶が戻ってきて、ようやく分かってきた。

目の前にある、ビデオカメラも三脚も、見覚えのある僕の物だ。

どうやら僕は、1人で演劇の稽古を撮影中、何かしらの事故で頭を打って、倒れていたのだろう。

つまり、今現在、ビデオカメラが赤く点灯してるということは、今もまだ録画中ということだ。

画面の時間を見てみるともう2時間以上も録画しっぱなしだ。

今時のビデオカメラは、2時間以上も録画し続けることが出来るから凄い。

そんな関心をしてる場合じゃない。

この録画されたビデオカメラの映像を見てみれば、自分に何が起こったのか、分かる。

と、いうより、ほぼ思い出してきた。

今度の舞台で、必要になる「逆立ち」の練習をしていたのだ。

今度の舞台は、初めて主役を演ずることになった。それまで、ずっと主役を演じ続けて来た先輩を出し抜き、ようやく叶った主役だ。

しかし、その条件として、逆立ちが1分間出来なければいけない。

その為に僕は、この体育館で、舞台の稽古が終わった後、1人で夜10時まで逆立ちの練習をしていたのだ。

多分逆立ちの練習中に頭をぶつけて気を失っていたのだろう。

 

もうカメラの映像は見るまでもなかったが、一応、自分がどんな失敗をして頭をぶつけたのか見てみることにした。

 

 

「ようやく僕は1分間の逆立ちを成功することが出来ました!それでは、今度はちゃんと撮影して、時間を計ってみます!」

 

なんだ、僕は出来ていたのか。

それを最後の最後に撮影中、失敗したということなんだな。

 

そう思い、映像を見ていると不可解な事が起きた。

 

「〜今度はちゃんと撮影して、時間を計ってみます!」と、言い終えた瞬間、突然僕がぶっ倒れた。

何だ!!?

よく見ると背後に木刀を持った男が映っている。この男に僕は木刀で殴られて気を失っていたというのか!?

 

一体誰が!!?

 

映像では、ハッキリと顔が分からないものの、体格から想像出来た。

 

「先輩…?」

 

ブン!

ゴンッ!!!!

次の瞬間、頭に激烈な痛みが走った。

今までとは比べものにならない。

薄れゆく意識の中で声が聞こえた。

 

 

 

「まだ生きてのか…」