ブログノベル「動体視力」
まもなく〜電車が、発進します。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ!!!!!
「いくつ?」
「153」
「お!誤差1だ。俺は154」
「まあ、いつもと変わらないな。じゃ、今日はこんなもんにして行くか」
「ああ」
2人は、電車の乗車人数を調べる仕事をしていた。
乗車人数なんてものは、改札のデータで分かりようなものだが、改札のデータがどこまで正しいのか、ある程度、人の目によって調べたりするのだ。
そして、その仕事が出来る人間は、人並み外れた「動体視力」を持っていなくてはならない。
「動体視力」とは、素早く動くものを正確に捉える視力。ボクサーが相手のパンチを見切ってかわしたり、スロットを打つ時の目押しを正確に押したりする時にも、この「動体視力」が重要になってくる。
この2人は、元々はスロットの打ち師をしていたが、ひょんなことから、この仕事に誘われ、アルバイト的な感覚でやっていた。
ガタンゴトン、ガタンゴトン、
電車に乗ると、何気なく外を眺めることがよくあるだろう。
これは、電車に限らず、どんな乗り物でもそうなのだが、電車で外を眺めていると、景色は素早く切り替わっていくため、ビルの看板の文字を読んだりするのも、それなりに動体視力が求められる。2人は帰りの電車に乗る際もお互いに同じ方向の窓から外を眺め、見づらい文字を読みあったりしていた。
「桐島探偵事務所…」
「0523-123-4567」「0523-123-4567!」
「簡単だな」
「もうこの辺も見漁ったなあ…」
「低須クリニック…」
「0523-456-789…!?」「0523-456-789!?」
「おい!」
「ああ、」
「今見えたよな?」
「ああ、見えた…」
「間違いないよな?」
「ああ、間違いない」
「人の頭…、だったよな…?」
「ああ…」
2人は見てしまったのだ。
人の頭部が路地裏に転がっているのを。
しかも、それは、およそ電車の窓からの視点でないと分からない場所の路地裏だ。
ほんの一瞬。2人でなければ見過ごしていた。
「どうする?警察に連絡するか?」
「いや待てよ。見間違いかもしれないだろ?頭に見えてただのガラクタだったり、なんかの人形だったかもしれない。そもそも、人間の生首なんて、実際に見たことないんだからな。」
「その通りだけど。俺とお前の視力でこれまで見間違えたことなんてあるか?例えば、アレがお前には人形に見えたか?」
「人間にしか見えなかった」
「だろ?だったら警察に…」
「待てよ!それなら、もう一度確認しよう!一旦戻って、またさっきの位置から見てみよう!それで、本当に人間の頭にしか見えなかったら、それはもう警察に行こう!」
「そ、そうだな。確認しよう。」
2人は、戻った。そして、また電車に乗り、それが見える最適なポジションを取った。
「桐島探偵事務所…次だぞ。」
「ああ…」
「低須クリニック、ここだ!」
ガタンゴトン、ガタンゴトン…
「おい…、見たか?」
「いや…見てない。なかった」
「ああ、なかった。さっきみた頭がなかった」
「見間違いなんかじゃないよな?」
「ああ、俺たちのどちらかだけ見たのなら、別だが、2人で見たもので見間違いなんて有り得ない!」
「よし!直接あの場所に行ってみよう!」
「ああ、真実を突き止めよう!俺たちが見逃していいものなんてない!」
続く。