ブログノベル「彷徨えるランナー」
雨の降る夜。
それは、つい1週間前の事だ。
僕はいつものようにランニングをしていた。
時間は夜の23時を過ぎている。僕が普段走ってる道は大きな国道沿いの歩道。真っ直ぐ走って、橋を越え、折り返し地点(約5km)に着いたら戻ってくる。それで約10km。時間にして1時間強ってところか。
その日の雨はまあまあだった。
でも合羽さえ着てれば、それほど雨の中のランニングは苦ではない。むしろ心地いい時もある。あ、でも真冬はつらいかな。
先ずは折り返し地点まで真っ直ぐ走って、橋の所まで来た。橋の道幅は少し狭くなっている。人2人が並んで通れる程度。
その橋を渡ろうとした時、橋の真ん中辺りに大きなカートのようなものを押している人影が見えた。
その大きなカートには何か段ボールやゴミのようなモノがが積まれていて、道をさえぎっていた。
カートを押している人はフードを被っていて、顔は暗くてよく分からない。
僕は立ち止まり、隅によってどうにかやり過ごそうとした。しかし、その男は低い声でブツブツ言いながら、何も見えてないかのように真ん中をグイグイ進んでくる。
思わず僕は、「ちょっと!もう少しそっちに寄ってくれないと通れないよ!」と言った。
男は聞こえていないのか、そのまま真ん中を進もうとする。
ドン!
その大きなカートにぶつかった。
「痛っ!」
僕はイラっとして、
「おい!お前、人いるんだからもうちょい寄れよ!」
バン!
っと、その段ボールが積まれたカートごと男を押し払って、走って通り過ぎた。
ボチャン!!
何かが橋から下の川に落ちる音が聞こえた。
『どうせ、段ボールか何かのガラクタが落ちたんだろ!自業自得だよ!』
男は低い声で何かブツブツ言っていたが、
僕は気にせず橋を走り抜けた。
折り返し地点に着いた。
またさっきの橋を戻らなければいけない。
まださっきの男がいるとは限らないが、もし出くわして何か文句を言われたら面倒だな。
僕は道路を渡って反対側の歩道から帰ることにした。道路は3車線の大きな道路で、反対側に渡る道は信号も横断歩道もなかったが、夜も遅いし車も通らないだろうと、ガードレールをまたいで突っ切ることにした。
その時だった。
車のライトを消して大きなワンボックスカーが猛烈なスピードで走ってきた。
ヤバい!!!!
キキィーーーッッ!!!!ドン!!
意識が薄れゆく中、男の声が聞こえた。
「ヤベー!やっちまった!!誰も見てないよな?逃げろ!!」
ブゥーーーン!
僕はそのまま気を失った。
ザーッ
雨の音が聞こえる。そしてうっすら人の声も…。
「大丈夫ですか?しっかりしてください。
私は橋の下に住んでる浮浪者です。凄い音がして、見に来てみたらあなたが倒れていた。あいにく電話が無いので救急車は呼べませんが、橋を越えたらコンビニがあるので、そこで救急車を呼んでもらいましょう。」
僕は何か台車のようなカートに乗せられた。
「こんな物で申し訳ないが、雨避けにはなるでしょうしばらくの間辛抱してくださいね。」
段ボールのような物を被せられ僕は運ばれているようだ。
『なんて親切な方なんだ…。でもどこかであったことがあるような…。』
「辛抱してくださいね。橋を渡りきるまでです。」
「大丈夫ですよ。」
「しっかりしてくださいね。」
その人はずっと僕を励ますようにささやき続けてくれている。
「もう橋の真ん中まで来ました。もうすぐですよ。」
その時、もう一人、誰か男の声が聞こえた気がした。『おい!お前、人いるんだからもうちょい寄れよ!』
そして、
ドン!
何かにぶつかった?
次の瞬間、僕を運んでくれた人とは別の、男の怒声のような声が聞こえ…、
僕は冷たく暗い闇の中で眠りに落ちた。
キキィーーーッッ!!!!ドン!!
物凄い音で目が覚めた。
気づくとそこは、橋の下の段ボール小屋。
「橋の上で事故か?」
僕は段ボール小屋を出て、急いで道路に横たわる人の方に走っていった。
完